皆殺しの物語
□漆
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◇希望◇
ココにはないモノ
綱吉達の修行の様子を見て、隼人が怪我をする無茶な修行の様子を見て。
家光に何も声をかけず、ボクは自分の部屋へと帰って来てしまった。
見ていられなかった。
見ていることが、辛かった。
その日は、ただ空を見上げていた。
雛見沢では、梨花が祭具殿の禁を破った。
祭具殿にヒトが入るのは、魅音がおかしくなるあの世界だけだった。
梨花が自ら祭具殿を開けることは、今までになかった。あの鷹野を祭具殿の中に入れるなんて、羽入は嫌がっただろう。
『この世界は、梨花が期待するような世界ではないのですよ……………』
期待は必ず裏切られる。
裏切られた時に傷付くのは、梨花自身だ。
羽入はそれを知っている。
前に期待したなら、信じろと言ったボクはかなり強引だった今なら思う。
「運命のトランプの中から絶望を引き当てたような気分だよ」
いつまでもカードは揃わない。
遊戯は終わらない。絶望を引き当て、残りのカードを抱えて繰り返していく。
この世界の希望は見せかけだ。それでも、それがなければ笑っていられない。
今、少しでも梨花が笑っているのならそれでも構わない。
「……………一人で考えていると、嫌なことばかりだ」
夜は更けて、朝日が昇る。
また、この世界の朝がやって来た。
学校に行っても、きっと綱吉達はいない。
……………雛見沢へ行こう。
この場所で彼等が傷付く姿を見ているよりも、みんなの笑っている姿を見ていたい。
それが楽だと知っていた。わかっていた。
現実から目を背け、向き合うことを拒んでいた。だから、ボクは雛見沢へ逃げた。
どんなに卑怯なことか理解していた。
それでも、構わなかった。
この場所に、ボクは必要ない。
今のボクは戦うことを恐れていた。
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