オリジナル〜Devil Tears〜

□第一章
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第一章 養子と悪魔の一族



そこは、何十人が住めるかという程の少し寂れた豪邸だった。青年は門をくぐり先へと進む。陰樹もそれに続き、足を踏み入れると、そこにはズラリと召使い達が整列し、一斉に頭を下げ、二人を出迎えた。愛想のよい青年は穏やかにそれに応えるが、それに反して陰樹は一層嫌悪感を露わにし、召使いの一人一人を睨み付けるように歩みを進めていく。


「ただいま〜!!」


青年は重々しい扉を軽々と押し、中へ入って行くとその明るい声をその広々としたエントランスに響かせ帰宅を知らせた。陰樹がそれに続きエントランスに足を踏み入れると、扉は重々しく、そこの華やかさを打ち壊すような不気味な音を立てて自然と閉じる。

窓から零れる日の光と、壁に備えられた数々の蝋燭の火だけで明るさを維持するエントランスは、薄暗く、まだ住民が眠りについている事を二人に知らせるかのようだ。

青年はきょろきょろと屋敷を見回し、困ったように頭を掻く。


「おっかしいな…まだ寝てるのかな?」


陰樹は扉付近で不機嫌そうに眉をしかめながら「お前が早起きなだけだろ…陽樹」と初めてまともに青年を見た。…いや、睨み付けた。

それでも陽樹と呼ばれた青年は嬉しそうに微笑み、陰樹を見上げる。


「そうだね…じゃあ、起こそうか」


青年は陰樹の答えを待たず、ほぼ独断で二階へと続く階段を昇って行った。階段の上からはエントランスが確認でき、それはまた、エントランスにいる陰樹からも二階に並ぶ一つ一つの部屋の扉が確認できる造りになっていた。よって、陽樹の入る部屋の一つ一つも、また、その部屋にどのような人物がいるのかも、陰樹は嫌でも理解してしまう。

まず、最初に部屋から出てきたのは、漆黒の流れるような長髪をポニーテールのように結った女性だった。女性は陰樹を見るなり、パタパタと階段を駈け降り、陰樹に抱きつく。


「陰樹!久しぶりね、珍しいじゃない!貴方がここに来るなんて」


「菜樹姉さんも、お元気そうで…」


陰樹は自分の義姉である菜樹から何とか身を離し、ため息をつく。だが、そんな陰樹に構わず、菜樹は陰樹に再度抱きつき、これでもかという程そのふっくらとした胸を陰樹に押し付けた。そんな中、また一つの部屋からこれまた漆黒の髪を持つ、糸目の凛とした青年が陰樹を見て、更には菜樹を見てゆっくりと階段を下りてくる。


「玄樹兄さん!おはよう」


菜樹はその青年を見てにっこりと微笑む。玄樹と呼ばれた青年は陰樹を見て一瞬驚いたようにするが「陰樹、来ていたのか…」と小さく微笑む。

陰樹は玄樹を見て、菜樹から何とか離れると、小さく玄樹に会釈をした。

そこに陽樹がパタパタと階段を駈け降りて来る。


「玄樹兄さん、呂樹兄さんはどうしたの?部屋にいないんだけど」


「兄がか…父君の元には行ってはいないか、確認はしたか?」


玄樹は陽樹の言葉にまた微かに驚いたようにすると、少し思案する。


呂樹…という名を聞いて、陰樹はまた先ほどのような仏頂面になった。彼と陰樹の間には厚い壁が立っている。お互いに相容れない部分が二人の仲を著しく悪化させて以来、未だに不仲が続いているのだ。


「その呂樹兄さんなら、ここにいますけど…?」








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