オリジナル〜Devil Tears〜

□序章
1ページ/2ページ

序章 

小さな山村で小さく大きな事件があった。とある一家の惨殺とその兄妹の失踪。

そこの村は農民たちが平和に暮らし、穏やかという文字のよく似合う場所だった。

その村の掟を知らなければ………


初めに目撃した住民はその惨事に発狂し、顔を背けた。命を奪われたのは二人、どちらも大人でこの村で有名な鴛鴦夫婦だった。子供は二人、最近生まれた女の子と五歳程の男の子の姿がない。
だが、ここの村に来ていた客人が思わぬ事実を口にした。


「悪魔がやったんだ、あれは人じゃない…あの子供は悪魔の子だ…」


同時刻、小さな少年が赤子を抱え薄暗い森の中を彷徨っていた。少年の衣服には紅いモノがべっとりと付着し、それは少年の白い肌をも覆っている。

鬱蒼と茂る雑草を掻き分け、樹の根を踏み、少年は必死に走る。布きれ一枚を纏い、赤子には二枚の粗末な布を。自らの着物を赤子に纏わせたのだろう。黒い短髪を靡かせ、傷ついた素足のまま、薄着の少年はひたすら森の中を駆け抜けていった。途中途中でぐし…ぐし…とすすり泣く女の子を抱き直す。


「泣くな、沙羅……絶対に俺が守ってやるから。絶対に…」


硬い決意を秘めた瞳に堅い決意を秘め、少年は走る。
目の前に黒い空間が現れた。

一度入ってしまえば、二度と戻れないかと思わせるような、黒く深い闇。

少年は足を止める。

入るか、否か…先にあるのは生なのか、死なのか…
空間は少年たちを待っているかのようだった。

背後から追っ手の叫びが耳に入る。


「捜せ、まだ近くにいるはずだ!!」


「あの悪魔め…自分の両親を手に掛けるとは、信じられん!!」


「見つけたら俺の刀で斬り捨ててやる…!」


ガサガサと雑草を掻き分ける音が近づき、追っ手の声が近くなる。

バタバタと足音が近づいてくる。
少年は女の子をしっかりと抱きしめ、空間を睨み付けた。

こんなところであんな奴らに殺されるなら………自分で死んだ方がマシだ!

少年は消えた。黒い空間に飛び込んで。

途端に少年の体を{無}が襲った。

何のない空間。

音も光も自分の体の温もりも。

だが、そこにいるであろう妹の体を守るように少年は体を丸めた。

感覚の全てがなくなり、{無}に囚われる。

意識が薄れていく。それだけはわかった。

少年は小さく呟いた。沙羅…生きろ…と。

死を覚悟した。





次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ